「壁を破りにきたな」——古明地洋哉氏によるcreeps新譜レビュー

長年にわたりお世話になっている先輩ミュージシャン、シンガーソングライター・古明地洋哉さんが新譜『GIRLFRIEND, NEW WAVE, WEEKEND』の感想を送ってくださいました。嬉しくて、ここに紹介させていただきます。


creepsのフロントマン竹内晃くん(以下、竹ちゃん)がマスタリング前の新譜のデータを送ってくれたので、早速聴かせてもらい、感想を含めてインスタのメッセージで何度かやり取りをした。以下はその抜粋をコメント用に改変したものです。

ソフト、暖かい、柔らかく包み込まれるような感じ。冬感、北国感を余り感じなかった。新境地、etc・・・。

通勤中だったり帰宅中だったりしたので、言葉足らずだった自分が悪いのだけれど、上記の言葉が竹ちゃんにはネガティヴなもののように感じられたようだったので、誤解を解くべく改めて長文で感想を書いて送った。


僕が柔らかいとか暖かいという言葉で言い表したかったのは「北国の長い冬が終わって弘前に春が来た」ように感じたということだった。柔らかくて暖かい春の日差しが少しずつ雪を溶かしていくイメージ。そこに僕は衝撃を受けた。何故なら僕はcreepsの音楽、特にアルバム『カンテラ』以降のcreepsの音楽に冬、東京のそれとは違う津軽の冬を感じていたから。

とはいえ弘前にも当たり前のように雪解けの季節は訪れるわけで、同じようにcreepsが長く厳しい冬を乗り越えて春を鳴らし始めたからといって驚くほどのことではないのかもしれないけれど、それでも僕は新鮮な驚きを感じた。竹ちゃんやベースの成田翔一くん(以下、翔ちゃん)が新譜のサウンドを構築する上で春をイメージしていたのか、狙っていたのかどうかはわからないけれど、僕はcreepsの新譜を聴いて春の訪れ、日差しを感じたのだ。


竹ちゃんが書く歌メロは基本的にポップでキャッチーなのだけれど、新譜は更にそっちに寄せたように聴こえた。鍵盤を多用したアレンジやギターの音色も相俟ってそう聴こえるだけなのかもしれないけれど、creeps史上最もポップなアルバムだと思った。

竹ちゃんの個性はどうにも隠し切れないパンク・スピリットだと僕は思っていて、それを竹内節と呼んでいるのだけれど笑、それは新譜からもしっかり感じ取ることが出来る。根っこの部分、バンドの核は何も変わってはいない。

面白いのが歌詞だけ読むとこれもまた竹内節全開でノスタルジックで何ともほろ苦いのだけれど、だからといって後ろ向きな感じはしないし、逆に光に包み込まれているように感じることだ。ほろ苦い言葉たちがキラキラした音に乗って全開の竹内節で歌われることで化学反応を起こし乱反射している、そんな風に感じた。


竹ちゃんが編む言葉、紡ぐメロディー、そして歌。フロントマンの背中を押す楽器隊のサウンドはその時々で変化していい。勿論それは他のメンバーの存在を軽視しているわけではなくて、根っこの部分である竹内節さえブレていなければその時々でどんな音を鳴らしても良いということだ。いきなりエレポップとかシンセポップをやられたらちょっと引くかもしれないけれど笑。

そして新譜で凄く良いなと思ったのはギターの笠井亮平くん(以下、りょうちん)が曲を書いて自分で歌ったこと。下手糞だろうが何だろうが歌は書いた人が歌うのが一番良いと僕は思っているし、実際りょうちんの曲は凄く良かった。「歩く」というこれ以上シンプルにしようがない曲名を付けるセンスも良いなと思った。なので今後他のメンバーの自作自演が増えても全然良いと思う。それがcreepsの第二、第三の武器になるかもしれないから。なので新譜の唯一の不満(という程ではないけれど)は翔ちゃんが曲を作って歌詞まで書いたのに自分で歌わなかったことだな笑。


前に竹ちゃんから曲がなかなか書けないという話を聞いた時に、前作の『AFTER LIGHTS』が凄く良かったから曲を書けなくなるのも無理はないよなぁと思った。同じ方向性で『AFTER LIGHTS』を越えるのは難しいだろうとも思っていた。だから新譜がどんな感じになるのか全く想像がつかなくて、逆にそれが凄く楽しみでもあった。

creepsがレコーディングに入った頃だったか、ニュー・ウェーヴやネオアコがキーワードと聞いたのだけど、実はそれでもいまいちイメージが湧かなかった。というのはニュー・ウェーヴと一口に言ってもどの辺のバンドをメインに聴いているかで受け取り方が大分変わるから。僕はThis HeatとかPiL、Gang Of Fourとかポストパンク系がメインだったから「creepsがニュー・ウェーヴ・・・?」という感じだったのだけど、実際に新譜を聴いてやっと合点がいった。The Cureなら1stかな、Jesus and Mary Chainなら2nd辺りかな〜という感じ。ネオアコは正に!という感じだったし。でもあくまでイメージとしてのニュー・ウェーヴやネオアコであって、懐古的な音を鳴らしているわけではなく、ちゃんと今の音になっている。「ギターがゴリゴリに歪んでいないからロックじゃない!」とも勿論思わない。変化を受け容れるのは勇気が要ることだと思うから、その勇気も含めて「壁を破りにきたな!」と思った。


一ファンとして当然新譜を買うつもりでいるから発売日前に一度だけ聴かせてもらうつもりだったのだけど、結局何度もリピートしてしまっている。『GIRLFRIEND,NEW WAVE,WEEKEND.』発売はまだ少し先。何だかんだでリピートしてしまうんだろうな。