creeps『GIRLFRIEND, NEW WAVE, WEEKEND.』Track-by-track review ―side B―

 バンドをめぐる12年のストーリーと、世界的な潮流と不意にシンクロしたアルバムのキーコンセプトについて、ここまで2回に分けて遠回りしながらも〈錯綜する豊かなコンテクスト〉とじっくり向き合ってきた。ここからは、よりダイレクトにcreeps『GIRLFRIEND, NEW WAVE, WEEKEND.』の世界を堪能してもらうため、各曲のレヴューを2回に分けて掲載していく。慎重な手つきでトーンアームを持ち上げ、静かにLPへ針を下ろす。やがてA面が終わり、レコードを裏返してB面へ。願わくば、実際にアルバムの音を聴きながらライナーノーツでも眺めるような気軽な気分でこのテキストを楽しんでもらえたら本望である。


Track-by-track review

―side B―

5. may

 中畑大樹(syrup16g)のサポートをきっかけにもたらされた本作の豊潤なリズム・アレンジについてはすでに何度も強調してきた。その最も実りある果実の一つとして結実したのが〝may〟である、とひとまずここでは言い切ってみたい。とはいえ誤解のないように先回りすれば、その多くは、プロデューサー的視点で楽曲全体のバランスを図りつつ、ベーシストとしても極めて高い能力を発揮する成田翔一の才覚に依る部分が大きい。「始まりの予感」が浮遊感とともに歌い出され、柔らかいリヴァース音が「朝日が差し込んで」いくように空間へ溶け込む。フロントマンの竹内晃が高らかに「夢の世界は消えてった」と中空へ言葉を歌い放った刹那、ハイフレットへ滑り込んでくるベースの存在感に誰もが耳を奪われるだろう。続くブリッジでは「普通にアコギで演奏すれば、一般的なポップスぽい、シングル的な曲になったと思う」と竹内が語るオーソドックスなメロディーの背後で、タイム感を自在に伸縮させ、楽曲に弾力を持たせる役割を成田が一手に引き受ける。そしてこのパートの後、たっぷりと時間をかけて展開する間奏において、躍動するベースはいよいよそのポテンシャルを爆発させる。一音だけのギターコードやリズムと、まるで凪いだ海へ寄せては返す波のように会話を交わすベースライン。やがてハイハットが裏打ちのリズムを踏み始める頃、自然と音階を駆け上がっていくプレイはさながら雄弁なベースソロのようだ。ここではあえてベースに的を絞って解説したが、緩急をわきまえたドラムのアプローチや、最少の音数で最大限の効果を生むギターとのアンサンブルは、なにも成田や中畑だけで構築したものではなかった。「小田島さんが最初に叩いたフレーズが基本にあって、そこから翔一の提案があったり、大樹が変化を付けたりして完成に至った」(竹内)ことが真実であり、目を見張るベースラインについても「もともとあったものからほとんど変わってない」(成田)という。なお成田はアプローチのリファレンスとして、バンドが前作で〝c c c〟をカヴァーしたAUTO PILOTの高畠俊太郎率いる高畠俊太郎BANDのベーシスト石川具幸、そしてティン・パン・アレー時代の細野晴臣の2名を挙げたことも記しておきたい(この組み合わせに成田のベーシストとしての個性が光る)。

 極めつけは、ラストへ向けて畳み掛け、一つの力強さへと収斂していくエネルギーの流れだ。空間を目いっぱい使ったここまでの自由奔放なアプローチを最後の場面で反転させ、「君はステップ踏んで 月の下で踊った / 大丈夫さ 大丈夫さ 大丈夫さ」と幻想的な風景の中でダンスする主人公の躍動感を、弾むようにストレートなビート感でタイトに表現する。これ以外には正解が考えられない美しいメロディーとハーモニーの重なり、まるで村上春樹の短編に出てくる印象的なシーンを普段使いの言葉で描ききった竹内のソングライティングまでを含め、新生creepsが持つすべての力が完璧に噛み合って一つのアートが出来上がるまでのドキュメントを目撃した気分になる。

6. so long

 80s的なブライトさを基調とする『GIRLFRIEND, NEW WAVE, WEEKEND.』の世界において、竹内がソロ作『YOHAKU ep』で弾き語った〝so long〟のcreepsによるフルバンド・バージョンは、森の奥に射す一筋の自然光のような静謐さを湛えている。この曲の背景や竹内の壮絶な想いについてはぜひ『YOHAKU ep』のレヴューを読んでほしいが、その芯にあるメッセージは竹内が弟へ語りかけた愛(と少しの後悔)であることは間違いない。本作ではアレンジャーとしてのセンスが覚醒した成田が、その抽象的なスピリチュアリティを高い解像度で具象のサウンドへと変換した。原曲の骨組みには手を触れず、川底に横たわるエモーションだけを掬い上げようとした成田のイメージにあったのは、ボン・イヴェールが孤独の中で素描した2007年作『For Emma, Forever Ago』収録曲の〝Lump Sum〟だった。「最初にやったのは、晃さんの『YOHAKU ep』の弾き語り音源をDAWにそのまま入れて、そこにバスドラムの音を足して、自分でエレキギターも弾きながら他にもいろんな音をどんどん重ねていった。そうやって作ったデモを皆に送ったら『ライブはこんな感じていこう』と固まっていって」(成田)。繊細さとスケールの大きさを両立させたアレンジの妙について、一つ一つをここで描写していくのは野暮だろう。一点だけ挙げるとすれば、優しさと哀しみが入り混じる穏やかな声色でポエトリー・リーディングを続ける竹内が、抑えた感情を堪えきれず「誰もいない真夜中の交差点で / 点滅する信号機のように」と声を張り上げるハイライトの裏で、静かに現れたコーラスの声とピアノの単音が感情に寄り添う美しい情景を推したい。「声は最初から思いついて入れてた音。歌ってることの内容も知ってるし、歌詞にインスピレーションを受けて自分も昔のことを回想してる時に、ページをめくるようなイメージをピアノで表現したいとフレーズが湧き立って」(成田)。

 そして、何をおいても「言葉のないメッセージ」を言葉で伝えるパラドックスを乗り越えた竹内のヴォーカル・パフォーマンスに触れないわけにはいかない。今これを読んでいるあなたがシンガーだとして、とりわけパーソナルなテーマについて〈歌〉ではなく〈言葉〉で表現しなければいけない場面を想像してみてほしい。前述の『YOHAKU ep』レヴューでは、竹内がこの曲を弾き語る際に想いが溢れ涙で歌えなくなるシーンを回想したが、誰もがそれは当然のことだと言いたくなるはず。けれど表現者としての竹内の成長と凄みが、実は透徹した意志にあることを取材を通して理解することができた。単刀直入、この曲における感情のコントロールについて質問を投げかけると、こんな言葉が返ってきた。「ライブによってはアッパーなパフォーマンスになる場合も少なくないし、今回曲を録る際も『アッパーな方で』とリクエストがあった。でもそれをやっちゃうと楽曲が壊れると思って、あえてちょっと抑えて歌った。翔一のアレンジを聴いたら、音響系とは言わないまでもシガー・ロスとかROTH BART BARONとかその辺りの狙いを感じて。少しでも完成度を高めるために歌い方を抑えようと」。

7. あたらしい世界(this is for you)

 creeps史上最もバラエティーに富んだ楽曲が並ぶ本作において、ここから終盤にかけてはとりわけカラー・バリエーションの鮮明さが際立つゾーンに入ってくる。本稿のリードで筆者は〈かつてないほどワイドなレンジでポップネスの枠を拡張した〉と記したが、拡げた片翼の先端に位置するのが成田が作詞作曲した〝あたらしい世界(this is for you)〟だろう。その意味を掘り下げていく前に、まずはcreepsにおける成田のソングライティングの歩みを簡単に振り返りたい。

 成田は、いまだに地元シーンで語り草となっている前述のHONEY FUZZで2000年代前半からプレイヤーとして頭角を現し、creepsには2008年に加入。翌年には竹内、小田島哲雄との3ピース編成で初音源となる通算3枚目のアルバム『カンテラ』をリリースした。同作には成田のペンによる〝クロール〟と〝体温〟(山口洋がゲスト参加)が収録され、『AFTER LIGHTS』にも印象深いオープニング・トラック〝snow globe〟を提供。寡作ながら優れたソングライターとしてバンドを支えてきた。

 creepsのキャリアにおいては4曲目にカウントされる〝あたらしい世界(this is for you)〟について本人は「〝体温〟に始まる連作の完結編のようなイメージ」とするが、前作までの自作曲との間にはいくつかの明確な違いを見い出すこともできる。あるいはその着火点となったのは、作者が感じたインスピレーションの喚起力と言い換えられるかもしれない。成田は「これまで自分が作る曲では歌メロまで出てこないパターンが多かった。〝snow globe〟もメロディーは晃さんに作ってもらったし。でも今回は晃さんが歌っているイメージと楽曲のサウンドが頭の中ではっきりと鳴って、歌詞まですんなり出てきた」と〝降りてきた〟特別な感覚を語る。なかでも歌詞に宿る芯を持った強さは、最終曲〝here comes the light〟のメッセージと響き合いながら、前作『AFTER LIGHTS』で見えた地平線の先に続くストーリーを語りかける。結論を急げば、バンドが大胆なスタイル・チェンジを遂げたかに見える『GIRLFRIEND, NEW WAVE, WEEKEND.』の世界観において、この2曲が前作との重要な結節点として機能しているのだ。その点について成田は「歌詞については、初めてプライベートなことを突き詰めて普遍的なところまで辿り着けた感覚があった。〝snow globe〟には『信じたその先に 何もなかったとしても』という歌詞があったけど、今回の曲で初めて歩き出せるようなポジティブなメッセージを入れたかった」と吐露。シンガーに徹した竹内も「自分が東日本大震災の時に作った〝世界はそっと美しい〟(『AFTER LIGHTS』リード曲)の歌詞とちょっと近いかもしれない。あの時は壊れた街並みがテレビに写り続ける中で希望に満ちたところまでは歌えずに『あの場所まで歩いたら きっと新しい景色 何もないよ』と表現したけど、〝あたらしい世界〟で翔一が書いた言葉は『その角を曲がれば きっと新しい世界』だからさ」と感覚を共有する。

 リリックが活写する、傷つきながらも未来を確信した眼差しの強さは曲調にも不可分なエネルギーを与えている。竹内が「翔一の影の部分」と評し、本人も「喪失が主題だった」と認めるこれまでの3曲には、深く沈み込むような自省とメロウなトーンが共通していた。これらと〝あたらしい世界(this is for you)〟をサウンド面で比較すれば、意外にもシガー・ロスを参照したというイントロの轟音ギターから過去作にはない濃密なエナジーを感じ取ることができるだろう。強いインスピレーションで解き放れた作者の創造力は、無意識下にある彼のルーツへの愛までもを開放したように聴こえる。前編で言及したカヴァー・バンド=Quarry麺ではアルバム再現ライブを行うほどのビートルマニアである成田は、コロナ禍に始めたDAWのスキルを突き詰めることで編曲能力を深化させ、まるで〝Strawberry Fields Forever〟のように鳴るメロトロン、〝All You Need Is Love〟さながらのブラス・アレンジ(こちらはサポート奏者のフクタハナコが演奏している)や中畑のドラムロールを加える作業を通して、初めて自らの原風景の一端をcreeps内で表現できたのではないだろうか。原曲からキーを半音上げる調整を経て彩度を増したメロディーは、旋律だけを取り出して聴けば往年のブリル・ビルディング・サウンドにも比肩するようなポップスとしての安定感を備えており、こうした要素はこれまでのcreepsのボキャブラリーには存在しないものだった。竹内もこうしたフレッシュな感覚を歓迎しており、「これまで翔一が書いてきた曲の中で一番好き。メロディーも残るし、シンプルに良い曲。日本のポップスや歌謡曲しか聴かない人にも届く可能性があるし、リード曲でもいいかなと思ったくらい」と手放しで絶賛している。

8. tears

 〈拡張したポップネス〉のレンジは、ここで最右翼の〝あたらしい世界(this is for you)〟から一気に反対側の先端にある〝tears〟までダイナミックにスキップする。迷いなく飛び込んでくる跳ねたビートに導かれ、小気味よいギター・カッティング、テンションコードを多用した流麗なコードワーク、ほんの一瞬登場するだけでファンキーなムードを印象付けるハモンド・オルガンの音色が重なっていく。これらすべてが、creepsを長く聴いてきた人であればあるほど新鮮な風として感じられるだろう。

 ここで少し脇道に逸れるが、そのオルガンを奏でた人物についても紙幅を割きたい。この曲のみならず、今作では〝雨とガールフレンド〟〝singin’〟〝may〟でも随所に鍵盤のオーバーダブを重ねたマルチ奏者、マイケル・ウォーレンその人だ。米国ミネソタ州生まれ、UCLA卒のこの才人は、成田が2012年に弘前市でアイリッシュパブ「Robbin’s Nest」をオープンした当初から店に通うALT(外国語指導助手)の一人だった。まだ米国にいたティーンの頃にはeastern youthのUSツアーを観に行くほどの音楽好きと日本への関心が、ALTのコミュニティが主催したRobbin’s Nestでのオープンマイクを通して地元ミュージシャンも巻き込んだいくつかの音楽活動へ発展してくのは必然だった。マイケルはその自然な流れの中で成田と音楽活動を共にしていくことになる。2人は前述のQuarry麺以外にも、同じALT仲間のジェイク・エディ・アーリックが主導する(個人的には初期エモ~パワーポップを架橋したザ・プロミス・リングを想起させる)Hatsukoi Four、そしてマイケル自身の天才的なマルチ・プレイヤーぶりとプロデュースワークが極まったソロ・プロジェクト=Honest Peopleの計3プロジェクトでバンドメイトとして精力的な活動を展開した。その才能は竹内も信頼を寄せるところで、本作『GIRLFRIEND, NEW WAVE, WEEKEND.』においては八戸市でのレコーディングが終了後、バンドの総意として「一度マイケルにも任せてみよう」と音源データを共有。マイケル自身が必要性を判断した楽曲にシンセなどの鍵盤類を加えていった。結果的に被せられたサウンドは、音数としては少ないにもかかわらず楽曲のカラーを大きく方向付ける効果を生んだ。なかでも最大の成果の一つが〝tears〟でのオルガン(特に間奏やアウトロでのワンフレーズは格別)と言えるだろう。なお強烈な蛇足として、鎌倉を拠点とするマイケルが現在、日本のネオアコ/ギター・ポップを代表するadvantage Lucyを鍵盤奏者としてサポートしている驚愕の事実も付記しておきたい。

 そんな凄まじい才能のバックアップもあって随分と完成度の高いポップスとして響く〝tears〟だが、聴感上のスムースさとは裏腹に、楽曲を最終形態へ仕上げるまでにはアルバム中でも屈指の苦労があった。竹内の音楽を長年聴いてきた筆者は、この曲の洒脱なコードワークから成田が原曲を持ち込んだ可能性を感じていた。しかし原作者は竹内だったのだ。その内実を作者自身が「12月に大樹とスタジオに入ってドラムも入ったのに、しっくりまとまらなくて。そのドラムを受けて翔一がコードを原曲から全部変えてくれた」と種明かしする。当の成田は「あれは焦った。かなり心身が削られた」と苦笑し、経緯を語ってくれた。「今作を作る際にずっと考えてきたことだけど、原曲はやっぱりコードの循環のリズムが単調で。コードの長さを倍にしたり短くしたりしてバランスを変えてみた。それで歌メロがハマるようになってきけど、自分はフレーズでコードを作ってギターのコードとしては理解していなかったので、そこはリョウチン(笠井亮平)に任せた。最終的にsus4なんかも交えたいい感じのコード進行にまとめてくれたよね」。

 特筆すべき点はまだある。一つはバラエティーに富んだリファレンスのユニークさ。成田が挙げたORIGINAL LOVE、初期KIRINJIにはリスナーも納得できるだろう。驚いたのは竹内のイメージで、これには取材時もメンバーから「意外だ」と声が挙がった。「自分がイメージしたのはフィッシュマンズの〝忘れちゃうひととき〟。今までのcreepsにはないタッチだと思う。それに〝THANK YOU FOR THE MUSIC〟の頃のbonobosにも近いものがある」(竹内)。

 最後にもう一点、ぜひ耳を凝らして堪能してほしいのが、職人肌のベーシストとしての成田がついに辿り着いた理想のサウンドだ。セットアップは、仲間から借りた1975~77年製のフェンダー社プレシジョン・ベース、それに丸みを帯びた太い出音が特徴のフラットワウンド弦を張り、アンプは竹内がバンド初期のベースボーカル時代から愛用する「acoustic B-4」を継承した。エフェクターは極力使わず、原音をクリアかつ忠実にアウトプットする特性を持ったアンプからダイレクトに出力することにこだわった。そして最大のポイントが、Lotustorks社製のフォームミュート(ミュート材)「KABUKI MUTE」の導入。弦のサスティーンが短くなることで、よりタイトかつ誤魔化しの効かない音塊が露わになる。成田が目指したのは名手ジェームス・ジェマーソンがモータウンの黄金期を支えたていた往時のサウンドだった。「ずっとやりたかったジェマーソン・サウンドが今回初めて鳴らせたと感じて満足してる。サスティーンが無い音でどうしても1曲弾ききりたくて。ただ、演奏する側の視点からすると本当に難しかった。バスドラムのアタックと少しでもズレてたら露骨に分かってしまうから、大樹さんだから実現できたのはあるかもしれない」。ジェマーソンがファットな温かみのあるアンペグのチューブアンプを愛用したのとは対照的に、ソリッドステートの澄んだアコースティックでジェマーソン・サウンドを再解釈したサウンドメイクに個性が光る。なお、もともとはシンプルなポップソングだった〝tears〟の初期バージョンはcreepsのYouTube公式チャンネルで2021年当時のライブ動画が視聴できる。ソングライティングの素材の良さがじみじみと伝わるこちらの音源との聴き比べもぜひおすすめしたい。

9. here comes the light

 優れたポップソングに必ずしもカタルシスが伴うとは限らないが、カタルシスを伴うポップソングは必ずや名曲となる。時代の変遷とともに幾度かのスタイル・チェンジを遂げてきたcreepsはこれまで、数多くの優れたポップソングを残してきた。成田からは何度か「creepsとは竹内晃である」といったリスペクトの念を聞いてきたし、当の竹内からは「ソングライターとしては歌詞とメロディーが出来た時点で仕事は終わってる」といった趣旨の言葉も聞いてきた。つまり、いつの時代もcreepsとは竹内の創り出すメロディーと言葉が生命線だった。そこに新たな風を吹かせたのが30年目に辿り着いた『GIRLFRIEND, NEW WAVE, WEEKEND.』の世界であり、アルバムの中核的なコンセプトを最初に導き出した〝here comes the light〟のポテンシャルでもあった。〝here comes the light〟は、竹内のメロディーと言葉をバンド・アンサンブルが加速させ、膨張させ、爆発させることでバンド史上初めてカタルシスを伴うポップソングにまで成長した。結論を急ぐ前に、いくつかのアウトラインに触れておこう。

 「初めて自分のことじゃなく、誰かのことを書いた。実はコロナ禍の最中に書いた歌で、自分の歌の中ではコロナ的な状況に対して歌った唯一の曲。自分は家庭を持ってないけど、メンバーにはみんな子どもがいて、その子たちの未来のようなものを描きたかった。コロナ禍は社会がどんどん閉鎖的、排他的になっていくのを感じてたけど、その中でもいつかは光を持って生きていけるようにと願って」(竹内)。今から12年前、まだ東日本大震災の爪痕も生々しい東北に生きる一人のミュージシャンとして竹内が絞り出した言葉は「光のあと」、『AFTER LIGHTS』だった。そこで〈光〉は、ある種の無力感や虚無感を連想させるニュアンスを帯びていた。一方でコロナ禍の閉塞感から生まれた〝here comes the light〟での〈光〉は、端的に願いの〈光〉であり、希望の〈光〉なのだ。「サビのキーがすごく高くて歌うのも難しい」という竹内が声を張り上げて歌うサビでは、驚くほどストレートな願いと希望の〈光〉が上昇気流に乗ったグルーヴとともに聴く者の心へ突き刺さってくる。

 「あの子が笑えるように / 無邪気に笑えるように  / 真っ直ぐ走りだせるように

手を差し伸べて / 光の方へ / here comes the light」

 前述したように、本作を貫く〈ニューウェーヴ〉のコンセプトに先鞭をつけたのも〝here comes the light〟だった。成田が「最初にアレンジした時、ニュー・オーダーぽくしたくて」と回想すると、すかさず竹内が「ニュー・オーダーというかニューウェーヴ。イントロはザ・キュアーの〝Boys Don’t Cry〟のオマージュで、そこからおそらく自分の中では本作のコンセプトが見えてきた。この曲が(収録曲の中で出来上がったのが)一番早かったかも」と補足する。さらに、小田島の脱退やサポート体制の構築を模索する混乱の中、アレンジの方向性を煮詰めていた際に起こったシンクロニシティが楽曲に確信をもたらした。「サウンドをもう少し細かく分析すると、ニューウェーヴ~パンクの間にまたがるようなクリーントーンのギターでやりたくて。ザ・キュアーやザ・スミスとか、ちょっとギターにコーラスがかかったイントロが出来た後に、The Birthdayのチバユウスケさんが亡くなった後にリリースされた〝サイダー〟ってシングルがちょうどラジオから流れてきて。サウンドのイメージがまったく一緒だったから、メンバーと一緒に『よし!』って」(竹内)。

 結果的にアルバムを先導する役割を担った〝here comes the light〟だが、他のアルバム収録曲とは一線を画すエナジーの爆発があるのは、音源を聴いたリスナーには明白だろう。それはまさに〈総力戦〉で獲得したカタルシスだった。竹内が全身全霊で叫ぶ「here comes the light」の言霊に感化されるように、同級生の中畑が30年以上の時を経て嵐のような凄まじいドラムロールで呼応する。ドラマのワンシーンとしても出来過ぎなこの美しい風景が〝here comes the light〟の飛び抜けたエナジーの熱源となっている。これらのパートについて、成田が「その部分も大樹さんが投げてきたアレンジを音で返したことで完成に至った」と制作過程を明かす。まるで4人が飛び立っていくようなスピード感はギタープレイにも伝染し、「オクターブ奏法のパートは自分がフレーズを考えて、リョウチンに弾いてもらった。最後のキラキラしたフレーズは自分が弾きました」(成田)と全員が欠かせないピースとして相互作用しながら〈カタルシスを伴うポップソング〉に初めて辿り着いたのだ。

-outro-

 筆者は本稿を執筆中の6月28日、彼らのホームである弘前市の「KEEP THE BEAT」でアルバム完成後初のライブを目撃した。そこで、予想だにせず己を恥じることになった内幕も正直に記しておきたい。音源だけを聴いて理解したつもりでいたcreeps『GIRLFRIEND, NEW WAVE, WEEKEND.』の楽曲たちは、ライブハウスでのパフォーマンスでまったくの別物に豹変していたのだ。それは80sやニューウェーヴといった人工的なキーワードを取っ払い、剥き出しのロックバンドによる、ありったけの生々しいエモーションとしてオーディエンスの感性を突き刺した。完璧にデザインされたアルバムの表情からは想像もつかない異常な熱量の高さは、creepsが叩き上げのロックバンドである出自を否が応にも思い起こさせた。もし仮に、過去のcreeps像に捉われて本作を受け止めきれないファンがいたとすれば、どうかまだ判断は保留してほしい。『GIRLFRIEND, NEW WAVE, WEEKEND.』の世界すら、creepsは紛れもないロックンロールとして鳴らすのだから。

 最後に、このライナーノーツまがいの駄文をサブスクの音源を聴きながら読んでいる方にも、ぜひフィジカルのCDを買ってほしいと重ねてお願いしたい。竹内が自らこだわり抜いて制作したアートワークは、パーソナルカラーのペパーミントグリーンをベースにフォントやあえて簡素なプラケースで80s感を狙ったパッケージまで、手に取らなければ伝わらないフィーリングに溢れている(ここだけの話、ブックレットには未公開の動画や写真などを楽しめるQRコードのリンクまで隠されている)。竹内は冗談めかして「退職後の資金もアルバム制作につぎ込んでしまった」と笑うが、それはそれとしても、バンドとしては本作の売り上げを基に『GIRLFRIEND, NEW WAVE, WEEKEND.』をLP化したいという願望もあるそうだ。慎重な手つきでトーンアームを持ち上げ、静かに『GIRLFRIEND, NEW WAVE, WEEKEND.』のヴァイナルへ針を下ろす―――そんな贅沢を、どうにかみんなで実現させようよ。

連載 creeps『GIRLFRIEND, NEW WAVE, WEEKEND.』
誕生までの12年を辿る
TRACK-BY-TRACK REVIEW creeps『GIRLFRIEND, NEW WAVE, WEEKEND.』
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REVIEW 「壁を破りにきたな」
——古明地洋哉氏によるcreeps新譜レビュー
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